橋本グループ研究紹介 [Dr.Hashimoto’s labo, in English]
動物モデルを用いた基礎研究
私たちは、SKGマウスという自然発症の自己免疫疾患の動物モデルを用いて、関節リウマチ(RA)やSLE、脊椎関節炎などの病態解明を行っています。
関節リウマチモデルマウス
SKGマウスはZAP70 というT細胞シグナル伝達にかかわる遺伝子の点突然変異の結果、BALB/c背景下で自己免疫性の関節炎を自然発症します1。このマウスの関節炎の発症には環境因子も重要であり、微生物学的にクリーンな環境では関節炎が発症しないということがわかっていました。
私たちはSKGマウスの関節炎発症にあたっては、従来いわれていたTh1/Th2細胞ではなくIL-17を産生するヘルパーT細胞(Th17)が重要な役割を果たすことや、自然免疫の刺激によるTh17の増大が関節炎発症のきっかけとなることを示しました2,3。また、関節炎の発症にあたっては、Th17や滑膜細胞、自然リンパ球など様々な細胞が産生するGM-CSFが重要な役割を果たすことを示しました4。さらに、SKGマウスの関節炎惹起性T細胞が認識する自己抗原を同定し、その抗原に対する免疫反応がヒトRA患者の17%、乾癬性関節炎患者の9%に検出されることを明らかにしました5。
SLEモデルマウス
T細胞シグナル伝達系の異常は、ヒトでは関節リウマチよりもむしろSLEの疾患感受性遺伝子として知られています。そこで、SKGマウスの遺伝的背景をBALB/cからC57BL/6(B6)にかえることで、関節炎でなくSLE病態を発症することを見出しました(B6SKGマウス)6。さらに、この動物モデルを使って、B6SKGのSLE発症には環境因子としての腸内細菌叢が重要な役割を果たすことをつきとめ、遺伝因子と腸内細菌叢のクロストークによるSLE発症メカニズムについて研究をすすめています。
脊椎関節炎モデル
IL-17というサイトカインは、ヒトでは、RAよりも乾癬性関節炎などの脊椎関節炎の病態に関与していることが、抗IL-17抗体の実臨床における奏功性から示されています。BALB/c背景のSKGマウスはRAのモデルとされていますが、SKGマウスに特定の自然免疫の刺激を加えると、関節炎以外に乾癬様の皮疹や炎症性腸炎、虹彩炎、脊椎炎など脊椎関節炎の病態も生じます7。そこで、このモデルも参考に脊椎関節炎の病態解明もすすめています。
T細胞シグナル伝達の異常は様々な自己免疫疾患にかかわっており、SKGマウスは遺伝因子や環境因子をかえることで様々な病気を発症するものと考えられます。今後も、動物モデルの知見をヒト臨床の知見と照合しながら、ヒト膠原病の病態解明に役立つ研究をすすめていきたいと考えています。
参考文献
- Sakaguchi, et al. Nature 2001
- Hirota, Hashimoto, et al. J Exp Med 2007
- Hashimoto, et al. J Exp Med 2010
- Hirota, Hashimoto, et al. Immunity 2018
- Ito, Hashimoto, et al. Science 2015
- Matsuo, Hashimoto, et al. J Immunol 2019
- Ruutu, et al. Arthritis Rheum 2012
データベースを活用したコホート研究
私たちは、関節リウマチの疾患データベースとして、京大病院リウマチセンターのKURAMAコホートを立ち上げ、それをもとに大阪大学など6大学を含む関西多施設ANSWERコホートを構築してきました。KURAMAコホートでは、関節リウマチの病態や自己抗体、遺伝子などに関する研究に加え、様々な診療科と共同研究を行ってきました[歯周病1(歯科口腔外科)、貧血(血液内科)、間質性肺炎(呼吸器内科)、サルコペニア2,3(人間健康科学科)、うつ・不安4(精神科・看護部)、超音波検査(臨床検査科)、服薬アドヒアランス5(薬剤部)、食事・代謝 (糖尿病内科)など]。また、臨床データに紐づいたバイオバンクを構築し、基礎研究や製薬企業との共同研究6などにも活用してきました。ANSWERコホートでは、多施設のメリットを生かしリアルワールドにおける分子標的薬の特徴などを明らかにしてきました7,8。従来の代表的なコホートでは、活動性データ登録が年1,2回であるところ、KURAMA・ANSWERでは全受診日の診療データが経時的に登録されており、様々な切り口からの臨床研究が可能となっています。2020年までにKURAMAからは9年間で57報の英文論文が発表されており、ANSWERには11,624名のRA患者ののべ145,627件の疾患活動性データが登録されており、質・量ともに本邦を代表するコホートへと成長してきました。2020年度は、KURAMA・ANSWERを活用した臨床研究がAMEDの研究課題として採択されています。最近は、SLEや血管炎などについてもデータベース化を順次すすめており、それらのデータを活用した臨床研究を今後発信していく予定です。
1)Hashimoto M et al. PLoS One. 2015
2)Torii M, Hashimoto M, et al. Mod Rheumatol. 2019
3)Yoshida T, Hashimoto M, et al. Rheumatol Int. 2018
4)Nakagami Y, et al, Arthritis Care Res. 2019
5)Nakagawa S, et al. PLoS One. 2018
6) Emori, et al. J Immunol. 2017
7) Hashimoto M, et al. Arthritis Res Ther. 2018
8) Ebina K, Hashimoto M, et al. Arthritis Res Ther. 2019
指導大学院生の受賞歴
松尾崇史
2016年 YRAR Best investigator award
白柏魅怜
2019年 第40回日本炎症再生医学会 優秀演題賞
第6回 JCRベーシックリサーチカンファレンス 優秀演題賞
田淵裕也
2018年 JCR APLAR トラベルグラント
2019年 第29回日本脊椎関節炎学会 優秀演題賞
2020年 第30回日本脊椎関節炎学会 一般優秀演題賞
勝島将夫
2020年 JCR APLAR トラベルグラント
2021 JCR APLAR Excellent Abstract Award
中山洋一
2021 JCR APLAR Excellent Abstract Award
高瀬雄大(医学部学部生)
2021 臨床免疫学会 未来賞 ノミニー