中坊周一郎医師(留学中)の人間健康科学系専攻医療検査展開学講座と共同で行った研究がModern Rheumatologyにアクセプトされました。

中坊周一郎医師(留学中)の人間健康科学系専攻医療検査展開学講座と共同で行った研究がModern Rheumatologyにアクセプトされました。

Nakabo S, Tsuji Y, Inagaki M, Tsuji H, Nakajima T, Murakami K, Terao C, Hashimoto M, Furu M, Tanaka M, Ito H, Fujii T, Mimori T, Fujii Y. 

Severe joint deformity and patient global assessment of disease are associated with discrepancies between sonographic and clinical remission: A cross-sectional study of rheumatoid arthritis patients.

Mod Rheumatol. 2020 May 5:1-9. doi: 10.1080/14397595.2020.1751922. [Epub ahead of print]

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32243209/

 

著者の解説

関節リウマチの治療目標は寛解ですが、寛解を達成していても骨破壊が進行してしまう患者さんがいることが知られており、その原因として医師の診察でとらえられず患者さんも自覚できないような微弱な炎症が残存している可能性が指摘されています。関節エコーではそうした炎症を観察することができ、subclinical sonographic synovitis(SSS)などと呼ばれています。

数年前まではエコーの施行回数を増やして出来るだけSSSをとらえ、治療に反映させるべきだろうと考えられていました。しかし、2016年にTaSER、ARCTICという大規模スタディの結果が出て、患者さん全員にエコーをしてSSSが消えるまで治療を強化するという方針は、予後を改善させないことが判明しました。

ただ、この結果の解釈には注意が必要です。これは集団レベルの話であり、かつスタディデザインの問題で、個々の患者さんレベルでSSSを無視していいという結論にはなりません。とはいえ「全員にエコーを施行するのは無益である」という結論は正しいと言えますから、SSSがありそうな患者さんを事前に察知して適切に選択してエコーを行うことが求められます。

でも、どうやって事前に察知したらよいのでしょうか?

その疑問にこたえるべく、今回、KURAMAコホートとリウマチ調査に協力くださった患者さんのデータを用いて、SSSがみられる可能性が高い条件を明らかにすることにしました。

日々の診察所見や血液検査所見のデータ、患者さんの自覚症状のデータなど、膨大な項目を検討した結果、以下のような場合にSSSが多くみられることが分かりました。

  1. 寛解基準を満たしている中でも、少し関節に腫れが残る場合
  2. 同じく、少しCRP(炎症の指標)が高めの場合
  3. もともと関節の変形が既に進行している場合

一方で、患者さんの自己申告による症状の強さの指標であるPtGAはSSSと関連しないことが分かったばかりか、PtGAが高いゆえに寛解基準を満たさない場合と、寛解している場合で実質的にエコー所見に差は無いことが分かりました。

このことから、上記の3条件に当てはまる場合は炎症の強さを過小評価している可能性を念頭に、一方でPtGAが高くて寛解未達成と判定されている場合は炎症の強さを過大評価している可能性を念頭にして、エコーを行うべきと考えられました。

なお、IL-6阻害薬を使用している場合も、多くのSSSが見られました。ところが不思議なことに、この場合はSSSが骨破壊の進行に関連しませんでした。治療方法によってはSSSを無視してよい可能性が示唆されます。ただ、それを断言するには今回の検討では十分な人数の患者さんでの評価が出来たとは言い難いので、今後もっと規模を大きくして研究することが望まれます。

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