笹井グループ研究紹介

笹井グループ研究紹介

免疫沈降法を用いての自己抗体スクリーニング

新規筋炎特異的自己抗体とその対応抗原検索

  筋炎には数多くの筋炎特異的自己抗体(myositis-specific autoantibody)と筋炎関連自己抗体(myositis-associated autoantibody)が報告されており、それぞれの自己抗体に対応するような臨床的特徴があるため、筋炎の分類・検査方針や治療方針の決定・予後予測に自己抗体は有用と言えます。当科では免疫沈降法という手法を用いて自己抗体をスクリーニングし、未知の自己抗体の検出とその対応抗原の検索をするとともに、臨床的意義を探究しています。また、実臨床においても治療方針決定に役立てています。

【筋炎特異的/関連自己抗体の種類と頻度・臨床的意義】筋炎特異的・関連自己抗体筋炎特異的・関連自己抗体

【免疫沈降法】

 

筋炎特異的自己抗体の臨床応用

抗ARS抗体測定用ELISAの作成と保険適用化(MBL社と共同研究)

 数多くの筋炎特異的自己抗体の中でも保険適用でルーチンに測定できる抗体は、従来、抗Jo-1抗体だけでした(筋炎での陽性率は約15%)。そこでさらに多くの筋炎特異的自己抗体を実臨床で役立てることを目的に、簡便な検査法を確立することを目的としました。

 当科ではMBL社と共同研究を行い、5種類の抗ARS抗体(抗Jo-1, PL-7, PL-12, EJ, KS抗体)を一度に検出できる混合抗原ELISAを開発しました。そのELISAの検査効率は免疫沈降法に匹敵し、2014年より本邦において保険適用が認められ、現在広く臨床に役立てられるようになっています。

【膠原病における抗ARS抗体測定用ELISAの陽性率】

抗ARS抗体ELISAの陽性率
 

抗MDA5抗体陽性間質性肺炎合併皮膚筋炎に対する3剤併用治療プロトコールの有用性と安全性の検討

 抗MDA5抗体陽性例はアジア人において、間質性肺炎の併発率が非常に高く、特に急速進行性間質性肺炎に至り、呼吸不全のために命を落とすリスクの高い病態を呈することが知られるようになっています。筋炎に対する一般的な治療法(従来法:ステロイド治療から開始し、病態が悪化するごとに治療を1つずつ強化していく方法)では救命率が悪いことが明らかになってきました。そこで、当科では抗MDA5抗体陽性例には可及的速やかに複数の免疫抑制薬を併用した治療プロトコールを適応することで予後が改善することを後方視研究で明らかにし、その有用性と安全性を前方視的研究で証明するため多施設共同研究を遂行中です。

 【抗MDA5抗体陽性例に対する3剤併用治療プロトコール】

 抗MDA5抗体陽性例に対する3剤併用治療

【抗MDA5抗体陽性例の予後比較】

抗MDA5抗体陽性例の予後比較

抗MDA5抗体陽性間質性肺炎合併皮膚筋炎症例の予後予測因子の研究

 前述のように抗MDA5抗体陽性例は予後不良な急速進行性間質性肺炎を併発するリスクが高いため、早期から強力な治療を要しますが、それでも治療に抵抗性を示す症例が少なからず経験されます。そこでそのような症例を早期に予測できる因子を検討しています。予測因子がわかれば、さらなる治療強化・補助治療の追加といった臨床上の対応に反映できると考えています。

 

筋炎の病態に関する研究

抗MDA5抗体陽性例の病態研究

 抗MDA5抗体陽性例では高フェリチン血症を呈し、血中IL-1β, IL-6, IL-18, M-CSF, IL-8, IL-10といったサイトカインが高値を示すことが報告されています。そのような特徴から単球・マクロファージが活性化した病態が背景にあることが考えられます。

 そこで血清因子だけでなく、血球細胞や組織サンプルを用いた病態研究を進めています。

 また、自己抗体自体の病原性の有無についても探究しています。

抗MDA5抗体陽性例の病態研究