村上グループ研究紹介

村上グループ研究紹介

村上の研究グループでは、関節リウマチの病態を考える上で環境因子がどのくらい重要なのか、基礎的・臨床的に様々なアプローチから解明しようと試みています。

1 脂質代謝と炎症

アラキドン酸に代表されるオメガ-6系脂肪酸は炎症を誘導するメディエーターとして知られています。その一方、オメガ-3系脂肪酸は炎症を積極的に収束させる作用を持つ脂質分子(Specialized Pro-resolving Mediator)に変換されることが分かってきています。

様々な原因により炎症反応が惹起されると、血管透過性の亢進により局所の浮腫性変化が生じ反応物質としてプロスタグランジンやロイコトリエンが増加します。これら炎症惹起性メディエーターは局所の好中球遊走を促進します。続けてマクロファージが炎症局所に集積すると、各細胞の持つリポキシゲナーゼから生じる細胞間生合成によってSPM (specialized pro-resolving mediator) が誘導されます。SPMは炎症惹起性メディエーターの分泌を低下させる作用を有するため、局所のlipid mediatorは次第にSPM優位となります。SPMは好中球遊走の抑制とマクロファージによる炎症非惹起性細胞貪食(Nonphlogistic phagocytosis)を活性化することによって、炎症収束を促進させます。

一方、関節リウマチや変形性関節症の患者さんにおいて、膝関節の脂肪組織中にある様々な細胞は炎症制御に強く影響することが分かってきました。

我々は、整形外科との共同研究に置いて、関節近傍の脂肪組織にあるマクロファージについての特徴を調べています。

(A) 関節手術から採取した滑膜線維芽細胞によるIL-6分泌はLPS刺激下においてのみSPMによって抑制されます。EtOH:エタノール (negative control). Lipid:SPMのmixture (lipoxin A4, lipoxin B4. Resolvin E2およびMaresin1.すべて10nM).

(B) 滑膜細胞表面のSPM受容体発現率(フローサイトメトリーによる測定)を調べたところ、代表的なSPMの受容体であるFPR2は主にマクロファージ(CD45+CD14+)で,CMKLR1は滑膜線維芽細胞(CD90+)で主に発現していました。

FPR2はG蛋白共役受容体で、Ligandによって異なるsignal伝達機構があることがわかっています。FPR2のリガンドであるリゾルビンD1(RvD1)に関してはPI3kinaseとAktを介してTNFαや移動や極性に関与しているといわれています。我々はFPR2が関節リウマチの病態にどの様に影響するか研究しています。

2 食習慣

関節リウマチ患者さんは魚油を豊富に摂取すると、関節リウマチの治療薬がより効きやすくなる、という臨床試験が発表されています。

京都大学医学部附属病院に通院している患者さんからいただいたアンケートに基づき調査したところ、シーフードや野菜の摂取回数が多い患者さんは疾患活動性が低かったことが分かりました。

3 肥満

関節リウマチの治療に影響する要因として、肥満は非常に重要なリスク因子であることが報告されています。

また、肥満は生物学的製剤の治療反応にも影響することが分かってきています。我々は大規模コホートを用いて、肥満が各薬剤の治療反応にどのくらい影響をするのか調査しています。

4 喫煙

喫煙は関節リウマチの発症リスクを高めることが分かっています。喫煙者は、非喫煙者と比較し、関節リウマチの疾患活動性や関節破壊進展、治療への抵抗性に関係しています。

我々は、当院呼吸器内科との共同研究で、喫煙が関節や肺にどのくらい影響が生じるのか、マウスモデルを用いて明らかにしようとしています。